エムブレム戦記 第1章「紋章軍始動」




――――――――お前は誰だ。
暗雲に光が阻まれ、打ち付ける豪雨に視界を妨げられる、冷たく閉塞された平原をただ一人、駆け抜けていた男が、自分と向かい合う一人の男の存在に至近距離まで近づいてようやく気付く。

――――――――・・・お前は、今のこの世を変えたいか?
向かい合う男は自分の問いには答えない。代わりに別の問いを投げ掛けてくる。自らの言葉を無視された苛立ちと、突飛な事を言い出した男に対する嘲りが、一瞬この男の頭を掠める。しかし、雨避けのフードから除く男の瞳―――清澄な碧空を思わせる綺麗な蒼を湛えたその瞳に宿る光は、男の意志を引き込むように、男の心を鷲掴むように、目に付いて離れなかった。そして、自然と彼の頭に過っていた毒気を抜き去ってしまったかのように、言葉が唇を導いたかのように、男は口を開いていた。

―――――――――・・・・出来るのか?
その言葉に、初めて碧空の目を持つ男は笑った。・・・正確には、口元を軽く上げただけで、微笑とはまた少し違った顔を見せていたかもしれない。しかし、それでもその男の中で、感情の一欠片が揺れ動いた事は紛うかたなき事実であった。

―――――――――やるんだ。俺と・・・・・お前で。
この時を最初から待っていたのだろうか。それとも直感的に口に出してしまっただけだろうか。
男の言葉に、確たる信用があったわけではない。この男が為そうと考えている事が、実現出来るとも思えない。

しかし、それでも

差し出された左手に

自らの左手を重ねて

男は碧空の目の男の手を握っていた。





何処とも知れない暗闇の中、ただ一人佇んでいた。

暗闇、は少し語弊があるかもしれない。辺りの風景は時として黒く染まり、時として白く開き、またある時はそれらの色が混ざり合って秩序の無い混沌を生み出す。

夢だろうか。しかし、眠りの中で見る夢にしては、色が、形が、光が無さ過ぎる。

歪んでいる空間の、どうしようもない「無」の極致。

しかし、意識は不思議な程にはっきりしており、深い眠りの中にしては些か不自然でもあった。

―――――――聞け。

ただ一つ、五感の全てを惑わすその空間の中に木霊す、一つの声。その声ははっきりと、断続的に頭の中に直接響いてくる。
――――――まただ。またこの声だ。

―――――聞くのだ。我の声を。そして、来るのだ。己が求める場所へ。我が待つ場所へ

声の主に覚えはない。何故頭にその声が届くのかも分からない。

しかし、何故だか、その声を拒絶する事が出来ず、また、拒む気も起きない。

まるで、その声に導かれているかのような・・・・・

―――――――来るのだ。「光の――――

響いてくる声とは裏腹に、意識は再び遠のいていく。同時に声も途切れる。

光の、なんだろう?あの声は、一体何を言い欠けたのだろう?

掠れていく意識の中、ただ一つの疑問を残し、

その声は

その空間は

その意識は

闇の中へと沈んで行った――――――――



















―――――――リ―――様―――
「う・・・・ん・・・・・」
眠りの中、未だ閉じられた瞼を開けないその少年の耳に、微かに響く声。しかしまだその少年の意識は覚醒する事は無い。
―――――セリ―――様。セリス様―――
それでも尚、呼び続けるその声に、次第に少年の意識は現実に引き戻されていく。
「セリス様、起きて下さい。」
頭上から降ってくる少女の一声が、今し方眠っていた少年、セリスの目を覚まさせる決め手となったらしく、セリスの瞼はゆっくりと開かれた。
「・・・ん・・・・・・・ん?」
「セリス様、おはようございます。」
セリスの目が完全に開いたのを見て、少女は胸を撫で下ろす。落ち着いた、それでいて清楚な顔立ちの、肩辺りで切りそろえられた黒髪の少女。セリスは自分のよく知る少女の名を呼んだ。
「マナ・・・・・うん、おはよう。」
上半身だけ起こし、少女に軽い挨拶を交わすセリス。マナと呼ばれた少女も、セリスに微笑みを返すが、それもすぐに消えてしまい、後には少し心配そうな顔が残る。
「マナ・・・?どうかしたの?」
そんなマナの微妙な表情の変化を感じ取ったのだろう、セリスが彼女を気遣うように尋ねる。マナはか細い声でおずおずと言葉を紡ぐ。
「・・・セリス様、何だか魘されていたようでしたから・・・大丈夫ですか?怖い夢でも見たんですか?」
それを聞いて、セリスは少し驚いた。マナに言われた事が、半分図星であると自分でも分かっていたからだ。しかし、それをマナには悟られまいと、セリスは微笑んでみせる。
「・・・うん、大丈夫だよ。何だか昨晩よく寝付けなかったから、その所為かもね。」
「何だか最近、そんな事ばっかりですよね・・・本当に、大丈夫ですか?」
セリスの微笑を見ても、マナはまだ不安が拭えないらしい。念を押すようにもう一度尋ねてくる。セリスはもう一度微笑んでみせた。
「・・・・うん。心配してくれてありがとう、マナ。」
その言葉でようやく安心できたのか、マナもつられて微笑み、一礼するとセリスの部屋を出て行った。一人になった部屋の中で、セリスは一人自分の夢を辿ってみた。
「あの声・・・一体誰のものだったんだろう?それに、一体何の意味が・・・・」
しかし、いくら考えても答えは一向に出て来なかった。諦めてセリスはベッドから出て、身支度を整え始めた。
―――その胸に、ただ一つだけの確信と決意を残しながら。

「現在、ユグドラルを含む四大陸の状況は悪化の一途を辿るばかりの状況にあります。数年前にグランベルを中心とし、突如その力の片鱗を見せた帝国連合の手は次第に他国にも伸び始め、国力に劣る諸国は帝国軍前に為す術無く、悉く打ち倒されています。ここ、ユグドラル大陸とて例外ではありません。既にアグストリア、ヴェルダン、シレジア、そしてここ、イザークの四国はグランベル帝国の手に落ちたと聞いております。未だ独立を保ち、反帝国の姿勢を崩していないマンスター地方も、レンスター王国とトラキア王国の二国間での確執もあり、先行きが不安である事は否めません。最悪、あと一年と少しもすればユグドラル大陸の全国家はグランベル帝国の手により支配される事になるでしょう。」
里内にある小屋の一角で、セリスは育ての親であり、戦いの師でもあるオイフェの現在の大陸事情を黙々と聞いていた。栗色の毛と同じ色の、口元に蓄えられた立派な髭を指で軽く梳きながら、オイフェは木製の机の周りを行き来しながら、机上に広げられた大陸図を時折指差している。
帝国連合。セリスはその言葉を聞く度に、自然と自らの体が身震いするのを感じていた。数年前、何の前触れも無く力を付け、更にその力を他国に振るい、突如としてその頭角を現した帝国連合。その発端となったグランベル帝国は六諸侯に分かれた連合国家であり、無論諸侯内で賛否は分かれたが、当時協力を全面的に否定したシアルフィ家は攻め滅ぼされ、エッダとユングヴィも完全中立と言う立場を取らざるを得なくなり、事実上グランベルは一枚岩となって強大な力を一大陸に知らしめていた。現在セリス達が身を潜めているイザーク王国も、三年前のグランベル帝国の侵略により屈服させられ、現在はグランベル諸侯の一つ、ドズル家の統治下にあるのだ。
既に何度か聞いている話ではあるが、セリスは今日に限って、その話を緊張の面持ちで聞いていた。
「ですが、無論考えまでもが帝国に支配されたわけではありません。最近になって、既に帝国に支配されたアグストリア諸侯連合国で、反帝国運動を本格的に推し進め始めた連合軍が現れたのです。名は「エムブレム軍」。大陸の垣根を越えた、最大規模の反帝国軍です。今はまだ小さな軍でしかありませんが、その勢いの増え幅はかつてない程です。このままいけば、或いは帝国にも対抗し得る勢力になれるかもしれません。」
オイフェが言葉を区切った所で、セリスは期待に胸元で拳を握りしめていた。
エムブレム軍。それまでは、帝国側ですら予期しなかった反帝国連合軍。内外を問わず、志を同じくする者が集い、帝国軍の圧力から大陸を救うと言う大義名分を掲げ、兵を挙げたと言われている、市井からしてみれば救世主とも呼べ得る存在。現在はアグストリアを拠点にしているらしいが、話によると結成者は他大陸からやって来た者だと言う。その存在が最近になって露呈し始め、セリスの中では言いようのない期待が膨らんで来ていた。
オイフェの話はそこで一段落ついたらしく、机上の大陸図を片付けに掛かっている。それと入れ替わるように、それまで脇に控えていた長い黒髪の男がセリスに近寄ってくる。
「ここまでが私達が取り収められたユグドラルの情勢だが・・・セリス、お前の決断は変わらないか?」
腰を屈め、セリスと視線を同じにして尋ねてくる。セリスは真っ直ぐその目を捉え、自分の中では決まりきったかのように言い放った。
「・・・うん。ここで待っていても何も始まらない。僕たちも立ち上がるんだ。エムブレム軍へ志願する。」
「・・・ふぅ、お前ならそう答えると思っていた。聞くだけ無駄だったな。」
黒髪の男は溜息交じりにそう言うと、屈めていた腰を上げ、そのまま出口戸の方へ徐に歩き出す。
「シャナン・・・ごめん。でも、これが僕の決断だから―――」
「何を謝る必要がある。私とてお前がそう決めてくれるのを待っていたのだ。お前が後ろめたく思う事は何もない。」
セリスの言葉を遮り、シャナンは捲し立てるように言う。その態度は全面的に自分に協力してくれている姿勢であり、セリスにはこの上なく頼もしく映った。
「ただし、行くんだったら私とオイフェも一緒だ。・・・・いや、私達だけじゃない。この里の者全員に声を掛け、名乗り出た者は全員お前と一緒に付いて行かせるぞ。私とて、お前一人に全てを任せる程横暴ではないからな。」
「シャナン・・・・ありがとう。」
軽く頷き、部屋を出て行くシャナンの背中はとても大きかった。

「当分この里にも戻れないからね。必要な物は持って行かなきゃ。」
オイフェとシャナンの三人の間で自分達の結論を出したセリスは、自室に戻り、エムブレム軍―――アグストリアへの旅立ちの為の準備を整えていた。武装、傷薬。手際よく自分の手持ちを揃えていく内に、ふと、棚の奧から何かを見つけた。
「これは・・・?」
何気なく棚から取り出してみると、それは剣であった。それもありふれた鉄製の剣ではなく、上等な銀を施した高価な剣である。
「なんだろう、これ。こんなもの、僕持っていたっけ・・・?」
頭の中に残る記憶を辿ってみたが、一向に思い出す事が出来なかった。里で育ってきた記憶以外の殆どが既に朧げとなっているセリスからしてみれば、ここまで上等な剣をかつて手に入れた記憶などある筈がなかったのだ。
「・・・僕の物かどうかはわからないけど、この剣なら戦いの中でも十分に役立ちそうだ。貰っておこう。」
セリスはそういうと、今まで腰につけていた鉄製の剣を外し、その銀製の剣を新たに腰につけた。
セリス「よし、これで大体の準備は整ったかな。」
準備が整い終わると、セリスはベッドに腰掛けた。出発の準備が整ったとはいえ、すぐにここを発つわけではない。シャナンが全員に話を通し、その上で皆に決断させる時間を考慮すると、最低でも丸一日は要するだろう。それまではゆっくりしようとセリスが思ったその時、ドアのノックの音がした。
「ん、誰?開いているよ。」
ドア越しにセリスがそう言ってやると、控えめにそのドアは開いた。そこから、おずおずとマナが顔を出し、部屋に入ってきた。
「セリス様・・・」
「なんだ、マナか。どうしたの?僕に何か用?」
単純に何か言伝があって来たのだろう、セリスはそう思って気楽に尋ねた。だが、彼の予想に反して、マナは少し怯えているような感じで、不安げにセリスを上目遣いで見ていた。
「セリス様・・・行ってしまうのですか?」
「・・・え?」
狐につままれたような顔で、セリスはマナの顔を見た。マナは依然不安な表情のまま言葉を紡ぐ。
「・・・シャナン様から聞きました。セリス様が、帝国と戦うためにアグストリアに行くって。・・・・だとしたら、もうこのティルナノグには、戻って来られないのですよね・・・?」
マナの乞うような、それでいて何かを懇願するような黒い瞳に、セリスは思わず見とれてしまいそうになった。
イザーク王国最奥に位置する隠れ里、ティルナノグ。生まれてからずっとティルナノグで過ごしてきたマナにとって、この隠れ里はセリスと出会い、共に過ごしてきた無二の故郷だった。セリスにとっても、記憶にある全ての月日を生きてきたこの里はかけがえのない故郷である。そんな里から、セリスがいなくなってもう戻ってこないと言う。マナにとってそれの不安は計り知れないものであった。
僅かに潤んだマナの瞳を見て、セリスにもその気持ちが通じたのだろう。苦笑交じりにセリスは言う。
「何を言っているんだ。マナ、君も来てくれるんだろう?」
「えっ・・・?」
マナは驚いた顔でセリスの顔を見た。それというもの、マナは事あるごとに謙遜するきらいがあり、セリスと自分には埋まることのない差があるものだと思っていた。だから、自分がセリスと共に行くことが出来ることなど、思ってもいなかったのだ。
「あの、私・・・・・本当に、付いて行っても良いんですか?」
「勿論だよ、マナ。・・・と言うより、付いて来て欲しい。僕自身が、君に付いて来てもらいたいんだ。」
「セリス様・・・」
その言葉は、セリスにとっては嘘偽りの無い本音であり、また何気ない一言だった。だが、マナはその一言で顔を紅潮させ、また、その一言だけで堪らない喜びを噛み締めていた。セリスに必要とされている。その事実だけで、マナにとっては十分だったのだ。

「ちょっとスカサハ、まだ準備できないの?」
「無茶言うなよ。二人分の荷造りさせといて。大体何でお前の分の準備まで俺がしなきゃならないんだよ!」
「紳士は淑女の分まで気配りするものなのよ。」
「お前のどこが淑女だどこが!大体お前はなぁ―――」
「あー、もう文句ばっかりで全然手が動いてないじゃない。・・・はあ、もう良いわよ。役立たずにやらせるより、私が自分でやった方が早く済むしね。」
「役立たずって・・・勝手にこき使っていたくせになんて言い草だ・・・」
シャナンの話を聞いた剣士のスカサハとラクチェは、自分達の部屋で準備をしていた。だが、基本的な荷造りは全てスカサハがやっていたようであり、いつもの口喧嘩が二人の間で飛び交っていた。二人は兄妹同然に育った間柄で、その所為か里内でも一際息が合っているのだが、性格は真逆である。控えめで慎重派なスカサハとは対照的に、ラクチェは勝気で自信家な為、年上な筈のスカサハに対しても強く出る傾向にあり、スカサハは良くラクチェにこき使われているのである。
「それにしても、即断即決だったよなぁ、俺達。」
「当たり前じゃない。ようやく私達の実力が試せる大舞台に立てるっていうのに、黙って見過ごすわけには行かないでしょ?セリスが行くっていうなら尚更ね!」
ラクチェは親指を突き立てて胸を張って見せる。シャナンから伝えられたエムブレム軍志願の為の義勇兵の募りに対し、ラクチェとスカサハは真っ先に名乗り上げた。元より剣の腕で言えば二人は間違いなくティルナノグ屈指の実力者であり、イザークにその名を轟かせているイザーク王子、シャナンも一目置いている存在であった。況してやラクチェはこの性格である。志願しない理由は無かったのだ。
「さてと、これで準備は完了ね。じゃ、後は明日を待つだけ!スカサハ!今の内に里内での生活を満喫するわよ!」
「はいはい。でもはしゃぎ過ぎてばてるなよ。」
気乗りしない声でスカサハは走っていくラクチェを追いかけていった。

「さてと、弓はこれでよしっと。あとは・・・傷薬も持って・・・あ、このお守りも忘れないようにしないと・・・」
別の小屋では、一人で黙々と準備を進めている青年の姿があった。平凡な茶髪に、何処かあどけなさが消えない顔立ちの、優しい面相をした青年だった。
「ディムナ、君も一緒に来てくれるんだってね。」
テキパキと荷造りを進めて行く青年の部屋に、セリスが不意に入ってきて声を掛ける。後ろからの声に驚いたディムナは、少し意外そうな顔でセリスの方に振り向いた。
「あれ、セリス。どうしたの?僕に何か用?」
「いや、用って程でも無いんだけど・・・ありがとうね。本当ならずっと平和に暮らしていたいだろうに、僕に協力してもらっちゃって・・・」
「礼には及ばないよ。今の世の中、誰かが戦わないと、平和になんて暮らせないし。僕はその手伝いをするだけだよ。・・・僕一人の力なんて微々たるものさ。」
そこまで言うと、不意にディムナの表情に陰りが差した。セリスはディムナのその微妙な表情の変化を見逃さず、尋ねる。
「?・・・どうかしたの、ディムナ。」
「・・・・三年前にイザークで起きたこと、覚えてる?」
三年前。あの時にイザークで起きた事と言えば、一つしか思い当たらない。そして、それはイザークに住む者からすれば非常に辛い事実。セリスは一瞬口籠ったが、意を決したように答える。
「三年前・・・イザーク城への、突然の帝国軍の奇襲、だよね?」
セリスから返ってきた答えを正解と認めるように、ディムナの表情がより沈痛なものに変わる。その表情を崩す事無く彼は言葉を連ねる。
「うん・・・あの奇襲は、イザークが帝国軍に屈する決め手になった、って言われているよね。兵士のみならず、市民も大勢犠牲になったそうだよ。およそ、イザーク領の人口の半数は殺されたって聞いている。辛くも生き残った人達も、落ち延びて、別の場所で生き長らえるしかなかった程に凄惨な有様だったらしい。・・・そこに。」
「そこに?」
セリスが聞き直すと、ディムナは一瞬答えるのを躊躇するように目を伏せたが、覚悟を決めたようにセリスの目を見据えた。
「そのとき、僕の幼馴染がいたんだ。その奇襲のときに・・・」
「えっ・・・それで、その人はどうなったの?」
ディムナから返ってきた言葉は、セリスにとっては予想外の事であった。ディムナはティルナノグ出身ではあるが、幼少期に何年かイザーク城で過ごしていたと言う話は聞いたことがある。しかし、イザークにも彼の顔馴染みがいるとは思ってもいなかったのだ。そして、その人が三年前の奇襲に直面したと言う事も。
ディムナは僅かに首を左右に振った。
「詳しくは分からない。行方不明かも知れないし、もしかしたら・・・・」
「・・・・・・」
セリスは思わず言葉を失っていた。ディムナが言葉を詰まらせた続き。それは彼にも予想がついた。しかし、その可能性を認めたくないから敢えてディムナは言葉を伏せたのだ。セリスは身近に帝国の脅威を思い知った人がいる事に、今まで気付かずにいた自分が情けなく思えてきた。
「・・・僕は、そんなことが別の所で起こるのは、もう嫌だから。辛いことは分かっているけど、僕も行くよ。君と一緒に。」
「ディムナ・・・ありがとう。」
セリスは改めてディムナに頭を下げた。

「よし、ラドネイ、どこからでも掛かってこい!」
「はい!シャナン様!」
里の者全員に話を通した後、シャナンは女剣士、ラドネイの剣の手合わせに付き合っていた。ラドネイはシャナンと同じ黒髪と黒い瞳に、溢れんばかりの闘争心を滾らせていた。
「しかし、共に来ると名乗り出てから即座に稽古とは。どういう風の吹き回しだ?お前の剣技はもう十分なくらい成長しただろう?」
鞘から剣を抜く前に、シャナンが思い出したようにラドネイに尋ねる。ラドネイの剣技は、ラクチェやスカサハ等にも勝るとも劣らない程の実力を持っており、やはりティルナノグの中でも随一の腕である事は確かであった。彼女が幼い頃から剣を師事してきたシャナンから見ても、彼女の剣技は十分に完成されていたのだ。
しかし、ラドネイはシャナンの問いに首を横に振って見せた。
「確かに、私も剣の腕には自身が持てるようになりました。でも、これから戦いが始まって、私じゃあ到底歯が立たない敵が現れるようなことがあるかも知れません。稽古一つで一周りましになるとは思いませんが、少しでも剣技を更に上に学んで、これから戦っていきたいんです!」
彼女のその言葉には熱意がこもっていた。その決意に気圧されたか、感心したか、シャナンは嘆息しながら鞘から剣を抜き取った。
「ふっ、そうか。ならば存分に相手してやろう。だが、そこまでの覚悟を持っているのなら、私とて容赦はしない。甘えは無しで向かうぞ?構わないな?」
「は、はい!望むところです!」
シャナンがそう脅したことで、ラドネイは動揺したが、再び剣を構え、シャナンとの戦闘態勢に入った。
ラドネイは、シャナンに稽古を付けてもらえると言う事自体が嬉しかった。シャナンはここ、イザーク王国の王子で、ユグドラル大陸に於いて伝説とされている十二聖戦士の一人、剣聖オードの血を最も濃く受け継ぐ存在なのだ。帝国軍が本格的に動き出した頃、ある人物との約束でオイフェが連れてきたセリスの世話をする為に、隠れ里ティルナノグに度々顔を出しており、三年前にイザーク王国が帝国軍によって支配されてからは、自らもその身を帝国の目から隠す為、ティルナノグに落ち延びるようになったのだ。ラドネイの剣の師事は、その頃からずっとしてきている。剣聖オードの血に違う事無く、シャナンの剣の腕はイザーク随一と噂されており、ラドネイは王子であるシャナン直々に剣の稽古を付けてもらえる事がこの上なく嬉しかったのだ。

ティルナノグは人口が百人にも満たない慎ましやかな隠れ里だったが、血気盛んな若者には恵まれており、また、その殆どがセリスと顔馴染みであった事が幸いし、四十名余りの戦士達がアグストリアへの遠征に志願してきた。小規模とは言えども、一個隊として十分にその形は為し得る数に結果としてまとまってくれたようである。
「セリス様、皆出撃準備が整いました。ご命令あらばいつでも出られます。」
皆の先頭に立つセリスの背中にオイフェが呼び掛ける。セリスは徐に振り向きながら頷く。その顔には決意のみが垣間見られた。
「よし・・・じゃあ、行くよ。目指すは・・・アグストリア!」
その声はティルナノグの里全体に広がり、それに呼応する声もまた、辺りの空気を震わせた。
(エムブレム軍・・・・あそこに行けば、何かが分かるかもしれない。僕があの軍に惹かれた理由も・・・毎晩見る、あの夢の意味も・・・・)
セリスの胸は、期待と不安の相反する二つの気持ちで高鳴っていた。
続く































あとがき
こんにちは。今度は紋章〜聖魔のキャラ合同で話を書いてみようと思ったので書いてみました。反省も後悔もしていません。
セリス「なんか、ゲストとして呼ばれちゃったんだけど、ここ何処?」
ああ、今回は君が来てくれたか。セリス君。ここは皆大好きあとがきコーナーだよ。
セリス「あとがきコーナー?」
ここに来た者は今回の話の反省点を言わなければならないのさ。
セリス「何で。」
何でも。
セリス「うーん・・・まぁまだ最初だし、あまり細かい事は言わないけどね。」
そこを何とか絞り出して。ダメ出しする度に人は強くなるんだから。
セリス「何その理屈。うーん・・・強いて言えば、ラクチェとスカサハの会話がコメディっぽくなってしまったところ?
あああそこ?でも、始めからシリアスだと、呼んでる人退屈して読むの止めちゃうかもしれないじゃない。この話シリアス路線で行くつもりだけど。
セリス「あ、そうか。まあだとしたらコメディ要素は控えめにしないとね。じゃあ・・・これ、ダメ出しじゃなくて質問何だけど、ディムナのあの設定は?」
あ、あれ?あの設定、俺が突発的に思いついたことをそのまま書いちゃったんだよね。
セリス「じゃあカレンは死んだことになってるの?」
うーん、そこの所は後から書くかもしれないから楽しみにとっておいてね。
セリス「ケチ。」
何とでも言え。
セリス「他は・・・あ、そう言えば、なんでみんな僕のこと呼び捨てにしてるの?マナとオイフェ以外みんな呼び捨てじゃない。シャナンはともかく。」
ああ、それは、みんなお前の素性を知らないから、自分たちと同じくらいかな?と思って呼び捨てにしている、と言う設定にしているぞ。ついでに、オイフェとシャナンはセリスの素性は知っているから、オイフェは様をつけている。マナは・・・性格柄かな?
セリス「あ、そうか。まあ、いきなり改まられても困るしね。・・・こんな所かな。このまま挫折しないように気を付けなよ。」
大丈夫。この話は意外と深く作ってるから。
セリス「本当かなぁ・・・じゃ、僕はもう帰るから。バイバイ。」
よし、じゃあ次回また。




参考程度にステータス

名前

LV

HP

魔力

早さ

幸運

守備

魔防 

体格

移動

属性

セリス

19

10

スカサハ

22

11

ラクチェ

18

11

オイフェ

37

14

10

12

13

11

13

12

ディムナ 

20

11

マナ

16

ラドネイ

20

11

シャナン

38

15

21

20

16

11

11

成長率

名前

HP

魔力

早さ

幸運

守備

魔防

セリス

80

55

15

50

50

40

45

30

スカサハ 

95

70

10

65

80

30

35

10

ラクチェ

75

45

80

90

10

15

10

オイフェ 

60

50

15

25

30

25

35

10

シャナン

75

35

10

90

35

10

20

ラドネイ

65

45

30

75

65

35

20

45

マナ

40

45

40

35

80

15

50

ディムナ

70

45

10

60

30

40

30

25

装備
セリス:銀の剣、傷薬
スカサハ:鋼の剣、鉄の剣
ラクチェ:鉄の剣、細身の剣
オイフェ:銀の槍、鉄の剣
シャナン:鋼の大剣、傷薬
ラドネイ:鉄の大剣、傷薬
マナ:ライブの杖、傷薬
ディムナ:鉄の弓、パワーリング

クラス
セリス:ロード
スカサハ:傭兵
ラクチェ:剣士
オイフェ:パラディン
シャナン:ソードマスター
ラドネイ:剣士
マナ:シスター
ディムナ:アーチナイト

第2章「白き地の黒」
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